会社から「とりあえずどちらか導入して」と言われても、モバイル端末の管理まで見据えると何が正解か判断しづらいものです。

一人情シスとして奔走すると、こんな壁にぶつかることがあります。
とりあえず有名なツールを導入してみたものの、いざ社用スマホを配る段階になって「リモートワイプができない」「初期設定に手間がかかりすぎる」といった運用トラブルが噴出するのは、よくある光景です。

PC中心の時代から、モバイルファーストの時代へ。
今のグループウェア選びは、単なるメールやドキュメント作成ツールの比較ではありません。それは、「いかに安全に、効率的に、社員のモバイル端末をコントロールできるか」という、MDM(モバイルデバイス管理)戦略そのものなのです。

比較に入る前に、避けては通れない3つの用語を定義しておきましょう。これらはGoogle Workspace(以下GW)とMicrosoft 365(以下M365)のどちらを選んでも、モバイル運用において必ず登場します。

  • MDM (Mobile Device Management): 端末の設定、セキュリティポリシーの適用、紛失時のロックやデータ消去を遠隔で行う仕組みです。
  •   EMM (Enterprise Mobility Management): MDMに「アプリ管理」や「コンテンツ管理」を加えた、より包括的な管理概念です。GWもM365も、現在は実質的にこのEMMの機能を提供しています。
     現在は「UEM(Unified Endpoint Management)」という表現が主流になりつつあります。
  • AB (Apple Business): Appleが提供する企業用プラットフォームです。GWやM365と連携させることで、iPhoneの「キッティング(初期設定)自動化」を実現します。

GWのモバイル運用の核心は、Googleが自ら主導する「Android Enterprise」とのシームレスな統合にあります。

Google Endpoint Managementの役割

GWには標準で「Google Endpoint Management」というMDM/EMM機能が含まれています。特筆すべきは、Android端末における「仕事用プロファイル」の構築の容易さです。

1台のスマホの中に、私用領域と仕事用領域を完全に分離する。この設定が、GWの管理コンソールから直感的に行えます。また、ABMとの連携により、iPhoneの管理も一定レベルまでカバー可能です。

メリットと運用手順

GWを選ぶ最大のメリットは「セットアップの速さ」です。


1. 管理コンソールから「モバイル管理」を有効にする。
2. Android Enterpriseの設定を行い、会社所有または個人所有(BYOD)のポリシーを決める。
3. ユーザーが自分のGoogleアカウントでログインするだけで、必要な業務アプリが自動配信される。

陥りやすい「落とし穴」

GWの管理機能は、高度なセキュリティ要件(例:特定のアプリ以外の起動を完全に禁止する、Wi-Fi接続先を厳密に固定する等)を求める場合、力不足を感じることがあります。また、iOS端末に対して、M365(Intune)ほど細かい「アプリ内保護ポリシー」を設定できない点には注意が必要です。

対するM365のモバイル運用の要は「Microsoft Intune」です。これは世界でもトップクラスのシェアを誇るMDM/EMMソリューションです。

Microsoft Intune(旧Endpoint Manager)の実力

M365の真骨頂は、OSの種類を問わない「条件付きアクセス」にあります。「最新のOSにアップデートされていない端末からは、Outlookにアクセスさせない」といった、非常に細かい制御が可能です。

メリットとベストプラクティス

Windows PCとモバイル端末を一元管理できるのが、M365を選ぶ最大の理由になるでしょう。

  • ゼロタッチ・デプロイメント: AppleのABMやAndroid Zero-touch登録をIntuneと紐付けることで、社員が箱から出して電源を入れた瞬間に、自動で自社の設定が流し込まれます。
  • MAM(Mobile Application Management)の強さ: 端末全体を管理せずとも、「OutlookやExcelの中のデータだけ」を暗号化し、個人用アプリへのコピペを禁止するといった、高度な情報漏洩対策が可能です。

とにかく「ライセンス体系」が複雑です。

モバイル管理を本格的に行うには、通常「Business Premium」以上のエディションが必要となります。
また、設定項目が膨大なため、初期構築を情シス一人で完結させるには、相応の学習コストと時間が必要です。

GWかM365か、どちらを選ぶにせよ、モバイル運用を軌道に乗せるためには以下の3点を押さえてください。

ID管理(IDaaS)を起点に考える

モバイル端末は紛失のリスクが常にあります。そのため、「端末を縛る」こと以上に「ユーザーのID(アカウント)を守る」ことが重要です。

GWならGoogleアカウント、M365ならMicrosoft Entra ID(旧Azure AD)。どちらのIDが自社の他システムと連携しやすいか、シングルサインオン(SSO)のしやすさを基準に選んでください。

キッティングの「手離れ」を追求する

一人情シスが1台ずつスマホを手作業で設定するのは、今の時代、避けるべきです。

  • iOSならABM連携。
  • AndroidならZero-touch EnrollmentまたはQRコード登録。
    これらが確実に動作する構成を組むことが、明日からのあなたの時間を確保する鍵となります。

セキュリティと利便性の「ちょうどいい」バランス

「何でも禁止」にするポリシーは、結果的に社員が勝手に個人用端末を使う「シャドーIT」を招きます。


「私用スマホ(BYOD)を認めるならGWの仕事用プロファイルで分離する」「会社支給ならM365 Intuneでフル管理する」といった、自社のワークスタイルに合わせた「ちょうどいい答え」を定義してください。

どちらの導入・移行を検討する場合でも、まずは以下の手順で現状を可視化してください。

  • 端末台数とOSの棚卸し: iPhoneとAndroid、どちらが多いか? PCはWindowsかMacか?
  • ライセンスの試算: GWの「Business Plus/Enterprise」とM365の「Business Premium」で、モバイル管理に必要なコストがどう変わるか。
  • 検証環境(サンドボックス)の作成: 1ライセンスだけ契約し、自分のスマホを実際に管理下に置いてみる。特に「リモートワイプ」が意図通り動くかを確認してください。

早見表:モバイル管理の観点で比べる

観点Google WorkspaceMicrosoft 365
端末管理の入口管理コンソール(Google endpoint management)Microsoft Intune(Intune管理センター)
利用条件基本的な端末管理は標準で利用できる。高度な機能はエディションにより異なるため、契約前に管理者ヘルプで確認するIntuneを含むプラン(Microsoft 365 Business Premium、E3、E5など)が前提。Business Basic・Standardには含まれない
得意な場面Android中心で、シンプルに運用したい場合条件付きアクセスなど細かなポリシー設計や、Windows・Apple混在の環境
注意点iPhoneの細かな制御が必要な場合は、外部MDMとの併用も検討するライセンス要件と設定項目の多さによる学習コスト

選定前に確認する5つの質問

  1. 端末はAndroid中心か、iPhone中心か
  2. すでに使っているID基盤は何か(Google、Microsoft Entra IDなど)
  3. 条件付きアクセスなど、細かなアクセス制御が必要か
  4. 端末の台数と、管理に割ける担当者の工数はどのくらいか
  5. 将来、専用のMDMを追加する可能性があるか

関連ガイド

Google Workspaceを選ぶべき企業:

① すでに社内でAndroid端末が多く使われている。
② 管理画面の分かりやすさを重視し、教育コストを下げたい。
③ ブラウザベースでの作業が多く、端末にデータを残さない運用を目指している。

Microsoft 365を選ぶべき企業:
① Windows PCとの一元管理が必須である。
② 業界の規制やISMS等の都合上、極めて細かいセキュリティログや制御が必要。
③ iOS、Android、PCが混在しており、強力な「条件付きアクセス」を実装したい。

モバイル運用の世界は日進月歩です。

本記事の内容は執筆時点の公式仕様に基づいたものですが、各プラットフォームのアップデートにより詳細な仕様は変更される可能性があります。

特にABMと各MDMの連携仕様については、最新のドキュメントを必ず確認してください。


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